否定の魔女保管庫 - 第一話「トレヴィーニ」 の変更点


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**&aname(hajimarihatosyokanntosyoujokara){始まりは図書館と少女から} [#n0cc70d5]
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**&aname(tabidatihakazeninotte){旅立ちは風に乗って}; [#j360c496]

 黄金の巨大竜巻が一つの大陸を覆っていた。
 絶対的な力に数多くの災害が生まれていく。だけど人々にとっては風が止んだ後の事を恐れていた。
 黄金の風の出現。それ即ち、否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンの復活なのだから。

 ナグサは目の前の光景に唖然とした。
 弾痕だらけの壁。多くの穴が開いて倒れている本棚。床に無数に散らばった本。完全に割れてしまい、見る影が無い窓。
 床をちらりと見てみるとこっちも弾痕だらけで、ところどころに薬莢が落ちている。しかも見たところ二十は確実に超えている。
 そして最大の異様な風景はこんな状態でも普通に本を片付けている司書と、唯一形は無事だったカウンター(当然弾痕だらけでへこみまくってる)の上で絵本を呼んでいる見知らぬカービィがいる事。

「……何コレ」

 全く持って意味が分からないんですが。
 あまりにも異様すぎる図書館の光景にナグサは頭が追いつけず、眩暈を感じた。
 何で図書館が戦争の跡みたいになってるんだ。明らかに銃撃戦があっただろこれ。平然と本を片付けないでくれよ頼むから。ってかそこのカービィ誰だよ。あーもう誰か説明してくれ。
 頭の中でグルグルと疑問が出てくる。言葉にしないのは意味が分からなすぎて、どれから聞けばいいのかサッパリ分からないから。
 ナグサの存在に気づいたのか、絵本を読んでいたカービィが顔を上げて能天気な声を出す。
 否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガン。
 そう名乗った目の前の彼女にナグサは己の目と耳、いや今現在起きている事そのものを疑った。

「あれ? 誰かいるよー、クーちゃん」
「嘘、だろ……?」
「何故このような状況で嘘をつかねばならん。それに起きた事は思考や理解が置いてけぼりになる程の滅茶苦茶なカオスではない。ナグサが妾を復活させた、それだけのことではないか」

 クーちゃん!? あの司書をクーちゃん呼ばわりって勇気あるな、おい!?
 とんでもない呼び名を聞いて、ナグサは思わず心の中でツッコミを入れた。
 その問題のクーちゃん呼ばわりされた司書クウィンスはというとナグサに気づき、本を片付けるのを止めると平然とした様子でナグサの方に体を向ける。
 震えた声をこぼすとトレヴィーニはあっさりと否定し、容赦なく事実を叩き付ける。
 益々ナグサの頭の中が真っ白になっていく。
 畏怖を、焦りを、不安を、後悔を感じ取り、グチャグチャに混ざっていく。混ざっていく感情は何と言えばいいのか分からない。絶望よりも深く暗い感情だ。

「ナグサ君、遅かったですね。どういたしましたか?」
「僕の遅れた事情よりもまず先にこの図書館の悲惨且つどうしようもない状況について説明してください。何なんですかこれは。銃撃戦でも起きたんですか。泥棒でも出たんですか」
「……ナッくん、大丈夫?」

 何時もの調子で話しかけてくるクウィンスに対し、ナグサは怒涛の早口で攻め立てる。
 平然とするにはこの状況はあまりにもおかしすぎるし、意味が分からないので説明が一秒でも早くほしい。理解できるように丁寧にだ。
 だがクウィンスはずれた眼鏡を直しながら頷いただけだった。
 表情がどんどんと沈んでいくナグサを心配したミルエは顔を覗き込む。だけどナグサは聞こえていないのか、顔を俯かせている。その様子を見たトレヴィーニは小さくため息をついた。

「えぇ、その通りです」
「……え?」
「ですから、泥棒が出て銃撃戦が起きたんです。ちなみに泥棒は絵本読んでる彼女です」
「妾を目覚めさせたぐらいでそこまで落ち込むか、普通?」

 そう言ってクウィンスは絵本を読んでいるカービィを顎で指す。
 顎で指されたカービィはというと、無邪気な笑顔を浮かべて手をナグサに振って挨拶する。
 その言葉にナグサは小さく反応し、ぽつりぽつりと返していく。

「ミルエだよ! ミルエ・コンスピリト!」
「ぐらい……じゃないよ。僕は、覚えているんですよ……?」
「妾の行った遊びの事か。貴様等は世界大戦などと大袈裟に呼んでおるみたいだが」

 ミルエ、そう名乗る濃い桃色のカービィはゴーグルがついた飛行帽(なのか?)を被ったウサギを連想させる特徴的な長い耳を持っている。頬にはハートの刺青がある。
 こんな異様な状態でなければ可愛い女の子だなと普通に思えた。しかし今はそれどころじゃない。
 遊び。
 否定の魔女からすれば世界大戦など、遊びに過ぎないのか。ナグサは百合のように白く美しく、だが不気味で恐ろしい彼女の言葉に少しの憤怒と大量の畏怖を感じてしまう。
 トレヴィーニは扇子を口に当て目を閉じ、過去を振り返る。

「ミルエちゃんだっけ? 君が……」
「ねぇねぇ! 君は何て言うの? クーちゃんのお友達?」
「え? あぁ、僕はナグサ。この図書館には良く来てる……ってちがああああああう!!」
「しかしあの時代は本当に良かった、今でもハッキリと瞼の裏に浮かんでくるよ。領土と支配を巡る小国同士のぶつかり合い。血で血を洗う悲鳴と咆哮が止む事が無かった殺戮の戦場。圧倒的な力と兵力を持つ自我を手にした機械。戦士達を翻弄させた不可解且つ不可思議な魔法。弱小民族の領土を得る為だけの皆殺し。生まれてすぐに死んでいく哀れな赤子、幼子達。一人殺したら人殺し、百人殺したら英雄、万人殺したら神。それ故に英雄と神が多く生まれていった。大地は荒野と化し、町は廃墟と化し、生ある者はあっさりと死体と化していく。死と血肉と本能に包まれた殺戮と戦慄の時代。これ程素敵な時代は存在しない。例えるならば――至上の極楽だな」
「ふざけんなっ!!」

 話を最後まで聞かず、子供と同じようにたずねてくるミルエに思わずつられてしまうナグサ。すぐさま我に戻り、思い切りミルエを指差すと先ほどと同じ、いや、それ以上の怒涛の勢いで質問を並べていく。
 過去に酔いしれていくトレヴィーニの言葉に、ナグサは咄嗟に大声で怒鳴った。
 その言葉にトレヴィーニは怒りも驚きも感じていないのか、ただ目を開いてナグサを見つめるだけ。
 出来たばかりの真珠のように清んでいて、己だけを映す白の中でも一際目立つ赤色の瞳に吸い込まれそうだと一瞬思ったが、ナグサはすぐに首を左右に振ってトレヴィーニに叫ぶ。

「君、さっき泥棒って言われてなかった!? この惨劇の原因君なの!? 何でこんな事起こしたの!? というかクウィンス、何でこんなに冷静なの!? 分かりやすく誰か説明してくれー!!」
「落ち着きなさい、ナグサ君」
「極楽なんかじゃない! 地獄だ! 地獄以外に何がある!! 何時死ぬか分からず、怯えるしか出来ない事の何処が極楽だ!!」

 混乱して、半分我を忘れているナグサの頭にクウィンスは本で思いっきり叩いた。
 鈍い音が響くと共にナグサはいきなりの鈍い痛みに思わず小さな悲鳴を上げる。
 精一杯に叫ぶけどその声は凄く震えていて、目尻には涙が溜まっている。どう見ても強がっているのは明らかだ。
 だけどトレヴィーニの非道すぎる言葉をただ黙って聞いている事は出来なかった。あの恐ろしい時代の中、運の良い事に生き残れたからこそ、あの惨劇をこんな楽しそうに言われて黙っているわけにはいかなかった。

「いだっ!?」
「状況に関しては今から簡単に説明します。だから落ち着きなさい。キャラ壊れてますよ」
「……この状況になってもキャラが壊れていないクウィンスとミルエちゃんの方が凄いと思うんだけど」
「ナッくん……」

 落ち着きすぎているクウィンスの言動を見て、ナグサは叩かれた頭をさすりながら返す。クウィンスはそれをあっさりスルーすると唐突にこんな事を口にした。
 ミルエはナグサの悲壮な叫びを聞き、彼の名前を呟く事しか出来なかった。
 一方のトレヴィーニはというと驚きもせず、震えていた。明らかに恐怖とかそういったものじゃない。彼女は声を押し殺している。
 何の為にと思った次の瞬間、トレヴィーニは耐え切れなくなったのか大声で笑い出した。

「『否定の魔女』を知っていますか?」
「え?」
「ぷ、くく、くふ、くふふふ、ふははははははははははは!!!! そうだ、そうでなければならない!! 妾にただ怯えるだけの男などいらん! 妾が欲しいのは度胸と勇気、それに見合う力を持った男よ! 己のちっぽけな好奇心と笑われた事によるちっぽけな意地により否定の魔女を蘇らせた男よ。妾を目覚めさせた責任をとってみせよ!! 貴様の度胸と勇気と力でなぁ!!」

 唐突に出てきた単語にナグサは思わず間抜けな声を出してしまう。
 『否定の魔女』は世界大戦を生き抜いた者にとっては常識過ぎる言葉。どうして今このタイミングでこのタイミングで出てくるのだろう?
 そう言って笑う彼女は肉食獣、否、魔王だった。
 真珠と思った丸い瞳は鋭くつりあがった鷹の目となり、けれども扇子を当てる口は隠れて見えない、だからこそ鷹の目を余計に際立たせる。美女と捕食者の顔、両方が宿るそれは魔王・魔女という表現が相応しかった。
 狂っている。これが、否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンなのか。
 ナグサは普通はありえない感覚・考えを持って、嬉しげに笑うトレヴィーニを見て、そう感じ取ってしまった。
 一通り笑い終えるとトレヴィーニは扇子を口から離すとすぐに穏やかな笑みを浮かべる。

「だれだれー? ナッくんは知ってるのー?」
「それならば幾分かハンデをやらんとな。ここで戦ってもつまらんし、妾の風を先ほど大陸全土に広げたばかり。妾の力は何よりも優れている、その気になればワンサイドゲームが出来る。だがそれではあまりにも一方的過ぎるしつまらんにも程がある。だからこそ妾は暫く何処かに消えようぞ」
「消えて、何をする気?」

 ミルエは純粋に分からないのか、クウィンスとナグサの傍に駆け寄って尋ねてくるだけ。
 クウィンスは喋る気が無いらしく黙ってナグサを見ている。「早く説明しなさい」と彼女の目が言っており、ナグサは渋々『否定の魔女』について説明する。
 何かやらかす気満々のトレヴィーニにナグサはミルエをかばうように前に出て問い詰める。恐ろしいという思いは消えていないが、向こう側に戦意が無いのならば逆に冷静になるべきだ。
 トレヴィーニはあっさり答えた。

「六年前に終結した世界大戦の黒幕であり、長い長い戦争を続けさせ、人々を苦しめ続けてきたこの大国の黒歴史と呼ばれるほどの危険人物。確か皇帝陛下率いる軍勢によって人知れぬ地に封印されていて、今は厳重な警備が施されていて、誰も近づけない状態になっている。これでいい?」
「第二次世界大戦」

 誰でも知ってる程度の簡単な説明をし、ナグサはクウィンスに少し疲れた顔で確かめる。
 クウィンスはこくんと頷き、己も続けて説明する。
 その言葉にナグサもミルエも目を見開いた。
 第二次世界大戦。それ即ち、再び地獄を繰り返すと言う事。再び死者を増やす事。再び悪夢を見せ付ける事。再び孤独を生み出す事。やっと統一した大国を破滅に導く事。
 トレヴィーニは二人が口を開くよりも前に、口を開く。

「その通り。何の目的かは知らないけれど、この世を災厄と滅亡に導こうとした魔王と言っても過言ではない絶対なる力を秘めた魔女。それが『否定の魔女』です」
「おぉー! とっても怖いぞー!!」
「いや、これ常識だから」
「それが嫌ならば妾を止めてみせよ。小さなお前達が妾を倒してみせよ。こういう遊びはライバルがいないと楽しくないからな」

 ミルエが純粋に感心するのを見てナグサは軽くツッコミを入れる。
 だがいきなり『否定の魔女』という話につながるのは一体どういうことなのだろうか?
 ナグサは小さくため息をつき、クウィンスに顔を向ける。
 最後は子供と全く変わらない無邪気な笑みを浮かべる。次の瞬間、何の前触れもなく魔女は消えた。少しずつ消えていったわけでもなく、光と共に消えたのではなく、本当に唐突に消えたのだ。
 同時に部屋に吹いていた黄金の風はピタリと止み、どさどさと宙に浮いていた本やら軽いものが落ちていく。

「で? 『否定の魔女』とこの地獄絵図に何の関係があるの?」
「あだっ!?」
「ひゃう!」

 尋ねられたクウィンスは先ほどとは打って変わって、ナグサも見た事が無い真剣な顔になって答えた。
 ナグサ、魔道書の角がおでこに直撃。ミルエ、枕が頭に直撃。ミルエはともかくナグサは痛い。
 魔道書の直撃にナグサがおでこを抑えてのたうち回る。ミルエが必死に「いたいのいたいのとんでけー!」と言ってくれるけど、痛いものは痛い。
 さっきのシリアスムードから一転してきたかと思ったその時、勢い良くドアが開き、二人のカービィが入ってきた。その際、大きな音が響いた為、ナグサとミルエが振り向く。

「実はこの埋もれた本の中に『否定の魔女』を復活させる方法が唯一書かれた魔道書があるんです」
「……え?」
「~~~!!」
「はぁ、はぁ……な、ナグサ君無事ですか!?」

 とんでもない爆弾発言にナグサは己の耳を疑った。
 世界大戦時に封印された『否定の魔女』を復活させる魔道書が……この図書館にある?
 そんな馬鹿な。自分はずっと前からこの図書館に通っていて、ある程度の本は網羅しているんだ。そんな危険すぎる本があれば覚えている。
 困惑していくナグサを見て察したのか、クウィンスは左右に体を振る。
 そこにはツギ・まちとクウィンスがいた。
 ツギ・まちはミルエを見つけるや否やすぐさま駆け寄っていき、クウィンスに至っては息切れを起こしていて肩で息をしてしまっている状態だ。
 ナグサは思わぬ訪問者に驚きながらも慌てて彼女に話しかける。

「魔道書は図書館にあったわけじゃないんです。そこにいるミルエ・コンスピリトがここに持ち込んできたんです」
「何だって!?」
「く、クウィンスどうしたの!? すっごい疲れてるみたいだけど……」
「当然ですよ……! あの風の中、図書館からここまで走ってきたんですから……!!」

 ナグサは思わぬ事実に驚きの声を上げ、咄嗟にミルエに振り返る。ミルエは話についていけてないのか、ただナグサとクウィンスを交互に見ているだけ。
 少なくともナグサにはミルエがそんな危険な代物を盗んできたなんて思えなかった。だが、ここまでのミルエとのやりとりをしていれば簡単に答えは出てきた。
 そう答えるクウィンスにナグサは先ほど、「風を全世界に広げた」というトレヴィーニの言葉を思い出す。
 どうやらこの部屋は止んだものの、他の場所はまだ暴風状態なのだろう。その証拠に廊下から黄金の風が吹いている。消えるならばせめて風を止めろ。

「……もしかして、そんなに大事な物だと知らずにミルエちゃんは盗んできたんですか?」
「多分そうでしょう。復活の魔道書は大国の本城に誰にも触れられないよう保管されている筈なんですが、何故か彼女は保持していました。ですが理由を尋ねても「人が持っていたのを盗んだ」の一点張り。仕方ないので力ずくで聞き出す事にしました。あの時は魔道書を見てパニックになっていましたので、今思うと良い判断では無かったですね」
「で、見ての通りの現状になったと?」
「はい。彼女も私と同じ銃器使いだとは思いませんでした。予想以上に激しい銃撃戦が行われ、図書館は見るも無残な姿になってしまいました。しかも戦闘の最中に彼女が魔道書を落としてしまったので、仕方なく中断して二人で探しているんです。実質私一人ですが」
「まっちん、どーしたの? え、黄金の風がいきなり吹いて大変だった? しかもこのお部屋のドアが開かなかった?」

 そこまで聞けば事件の概要がさすがに分かる。
 何かしらの事情でこの図書館にやってきたミルエ、当然例の魔道書を持ってだ。クウィンスは魔道書を見て大いに戸惑っただろう。何せ世界を滅ぼそうとした『否定の魔女』を復活させる魔道書がいきなり出現したのだから。
 だけど冷静なクウィンスはすぐに我を取り戻し、ミルエに何故魔道書を持っているのか尋ねた。だがミルエは「盗んだ」と答えてしまったのだ。魔道書が重大なモノであり、ここに合ってはいけないモノだという事実がクウィンスを焦らせたのか、それを知った途端彼女らしくなく話を強引に進める為に拳銃を向けた。
 そのまま流れるようにミルエとクウィンスによる図書館内部での銃撃戦が行われた。しかしその最中に肝心の魔道書が消えてしまい、二人は戦闘を中断して(恐らくクウィンスがミルエに説明したのだろう)探す事にした。
 その真っ最中に自分ナグサがやってきた。
 多少食い違いはあるかもしれないが、クウィンスの話を大体整理すればこんなもんだろう。ナグサは内心でそう結論付けるとクウィンスに尋ねる。
 一方でミルエはツギ・まちから事情を聞いていた。喋れない彼にどうやって事情を聞いているのかは分からないが。
 あたふたと両手を振るツギ・まちにミルエは軽く頷きながら翻訳していく。

「まぁ、ある程度の事情は分かったよ。それで僕はどうしたらいい?」
「あ、手伝ってくれるのですか?」
「さすがにここまで聞いちゃったらね」
「ラジオをつけたら大国全土で風が吹いているニュースでいっぱい……?」
「そうです。先ほど本城にいる友人に電話したところ、世界規模で黄金の風は発生しているのです。もう何処のニュースでも流れていますよ。あの否定の魔女が復活したと」

 意外そうなクウィンスに対し、ナグサは小さく苦笑しながら頷く。
 クウィンスはそれを見ると顎に手を当てて少し考え込むけれど、すぐに纏まったのかナグサに顔を向けてお願いする。
 それに答えるのはツギ・まちではなくクウィンス。台詞(?)を取られたツギ・まちはご機嫌斜めになったのか、ハムスターのように頬を膨らませる。が、すぐにミルエに頭を撫でられたので機嫌が良くなった。
 可愛らしいやりとりを他所に、ナグサはクウィンスに神妙な顔でたずねる。

「……そうですね。では手伝ってください。それと時間が遅くなったら、彼女を泊めてください」
「…………は? ちょっと待って。前半はともかく、後半はどういうこと?」
「そのままの意味です。この町には宿などありませんし、一人暮らししているのはあなたの家だけですから丁度良いでしょう?」
「いやいやいやいや、何でそうなるの? 意味が分からないんですけど?」
「そんなに酷い状況なのですか?」
「はい、色々なものが飛んで飛んで飛びまくっていましたよ。先ほど空飛ぶ大きな茶碗を見かけましたし」
「ち、茶碗? 何でそんなのが……」
「ちなみに中身付でした」
「良くこぼれなかったな、おい!!」

 あまりに突拍子の無いお願いにナグサは理解する事が出来ず、呆然とする。
 クウィンスはその様子に笑う事も呆れる事もせず、ずれた眼鏡を直しながら普通に説明する。
 クウィンスの余計な付け足しにナグサは条件反射と言ってもいいぐらいの裏手ツッコミを入れた。ツッコミどころずれてるけど。
 クウィンスはナグサのツッコミをスルーし、警戒した様子で問う。

「彼女は『否定の魔女』を復活させる魔道書を許可無く保持していました。この事実に関して大国に連絡しなければいけません。ですがその魔道書を見つけ出すには少し時間がかかりますし、その間に彼女がいなくならないという保障はありません。大国からの使者もこの町に来るまで最低でも一日はかかります。ここまで言えば私の言いたい事が分かりますね?」
「そりゃ分かるけど……」
「手伝うって言ったのはナグサ君ですよ。男に二言は無いという言葉があるのをお忘れで?」
「ところで……否定の魔女は?」
「好き勝手ほざいてから消えた。ハンデをくれてやるから自分を倒してみろってね」

 これは何を言っても無駄だ。
 ナグサはクウィンスの有無も言わさぬ畳み掛けるような正論に折れ、深いため息をついて仕方なく頷いた。
 だから今ここにはいない。
 ナグサはそう付け足しながら、自分に直撃した魔道書を拾う。さっきまでトレヴィーニと一緒に浮いていたというのに、今はただの本と変わらない状態だ。
 もしかして角に当てたのは魔女の嫌がらせじゃないだろうとな、とナグサが思ったのと同時に、クウィンスはいきなり口を開いた。

 ■ □ ■
「……三人ともさっさと旅立ちの準備を。魔道書はここに置いていってください」
「「へ?」」
「?」

**&aname(madousyonoyukue){魔道書の行方} [#hdd277f0]
 クウィンスの発言の意味が分からず、三人は首を傾げる。それを見たクウィンスは少し呆れながらも説明する。

「この風が止み次第、こちらに大国の使者が来ます。大国の友人と電話している真っ最中に風が吹き始めましてね。しかもよりにもよって事情をあらかた話した後」
「……それってつまり?」
「図書館での銃撃戦とミルエが魔道書を保持していた事を話してしまいました。それと大国で最も有名な占い師の予言に『魔女を復活させるのは少年』というものがあったようなのです。これがどういう意味か分かりますか?」
「トレヴィーニと対峙したばっかだから十分すぎるほどに」

 その後、長い間本を片付けたりしながら魔道書を捜索したが結局見つからなかった。
 それは当然の事だろう。ほぼ全ての本が図書館の床全体に散らばっているんだ。半日程度ではたった二人(ミルエは論外)では片付けきれないし、魔道書を見つけ出す事も不可能である。
 日も暮れてきた事もあり、後の事はクウィンスに任せてナグサはミルエと共に自宅に帰ることにした。明日手伝いに行けばいいのだと思いながら。
 つまり魔道書を盗んだミルエとツギ・まち、不本意にも否定の魔女を蘇らせてしまったナグサも大国に狙われる可能性が高いということだ。大国は世界大戦の勝者であり、六年の時が経っていてもその実力が衰える事は無い。寧ろパワーアップしているとも聞く。
 否定の魔女を封印する時に生き残った実力者達はまだまだ現役。色々なニュースで活躍しているのをたまに見る事があるぐらいだ。……勝てる気がしない。
 だからこそ、クウィンスは真剣な顔つきで話を続けていく。

 で、自宅の前についたナグサは空いた口が塞がらなかった。
「だからここから離れてください。そして、責任を取ってください」
「責任?」
「はい。あなた達は否定の魔女を復活させてしまった事に対する責任です。責任の取り方は唯一つ。人々を納得させる方法で否定の魔女を再び封印する事です」

 その理由は簡単だ。自宅の前にまたも見知らぬカービィが突っ立っているのだから。しかもただのカービィではない。
 全身継ぎ目だらけで、その間から綿が出ていたり、挙句の果てには棒キャンディもどき(見るからに布製だ)が出ているカービィ。一言で例えるならば「不恰好なぬいぐるみ」だ。
 ナグサが呆然とする隣でミルエは明るい笑顔で見知らぬカービィに手を振って声をかける。
 その言葉にナグサは一瞬目を見開くが、すぐに納得してしまった。
 当然だ。誰も二度目の惨劇を望んでいない。誰も否定の魔女の蘇りなど望んでいない。否定の魔女が復活した事実は黄金の風によって全ての人々が知っている。ならそこから来る心理は何だ? 決まっている。復活させた罪人を裁け、それ相応の罰を与えろという強大な怒りだ。
 それが起きる前に、それを目の当たりにする前に自分達は否定の魔女を再び封印しなければならない。ナグサは深く決意する。

「あ、まっちん! おとまりする場所言ってないのに良く分かるねー!」
「――」
「え? ミルエの行くとこは分かる? おぉ、凄いぞまっちん!」
「言ってる事分かるんかい!!」
「分かった。なら本城と城下町には行かない方が良い?」
「……今の段階ではそうですね。それよりもマナ氏を探す方が宜しいかと」
「まなし? 誰それ?」
「魔女封印の手段を誰よりも早く解明し、それを実行した人物です。元は大国本城の魔術師でしたが今は本人曰く隠居生活を行っています」

 一言も言わずにこちらに向いただけの“まっちん”とやらと平然と話すミルエに対し、ナグサは素早くツッコミを入れた。
 すぐさま我に返り、ナグサはミルエにたずねる。
 否定の魔女封印を行った魔術師マナ。大国本城に行くのが危険な今、彼に出会い再封印を行う事がベストな選択だ。
 だがナグサはクウィンスの言い方が少し引っかかっていた。

「ってこの人ミルエちゃんの知り合いなの?」
「そっ! 一緒にぼーけんしているまっちんことツギ・まち!」
「あの、一つ聞いていい?」
「何ですか?」
「……探すって、つまりその人の場所、分かってないって事と見ていい?」
「はい。でもご安心を。手がかりとなる人物は複数存在しています」
「うわぁ、すっごい手間がかかりそうな旅になりそうだ……」

 元気良く紹介するミルエ。まっちんことツギ・まちはミルエに紹介されてちょっと照れているのか、顔がちょっと赤くなっているが、そのままペコリとナグサにお辞儀する。
 ナグサはそれにつられて軽く挨拶しながらお辞儀する。
 返ってきてほしくなかった答えにナグサは一気に気落ちする。自分が起こしてしまった事態とはいえど、出来れば楽に済んでほしいのだが世の中そう上手くはいかないようだ。
 そんなナグサを見て、クウィンスは優しい微笑を浮かべて元気付ける。

「あ、どうも」
「ナッくん丁寧だねー」
「君が能天気すぎるだけだよ。とりあえず家に上がって。聞きたい事は山ほどあるから」
「大丈夫。確かに否定の魔女は驚異的存在ですが、決して勝てない相手ではありません。私達カービィが大国に纏まる事が出来たのがその証拠です。だから自分と自分を信じてくれる人を信じて進みなさい」

 感心するミルエを軽く流しながら、ナグサは二人に家に上がるように勧めた。
 二人はナグサの言うとおり、ナグサの自宅に入る。ナグサは最後に入り、鍵を閉めると二人を居間に案内する。
 居間につき、ナグサはミルエとツギ・まちを適当に座らせると向かい合う位置に座って尋ねる。
 優しいその言葉に、ナグサは己の中に溜め込まれていた不安と恐怖が和らいでいくのを感じた。
 クウィンスは自分よりもずっと大人だ。言うべき事はしっかり言い、フォローも忘れない。傷つけたままにはしない優しい人。世界大戦の時、何度彼女に救われたことだろう。思い返すとキリが無い。
 己を励ましてくれた彼女に、ナグサは礼を言う。

「さてと、どうして魔道書を盗んだのか聞いていい?」
「ありがとう」
「どういたしまして。……それでは話も纏まった事ですし、早々に旅立ち準備を」

 クウィンスが聞きそびれた何よりも重大且つ本題とも言えるソレに対し、ミルエは普通に答える。
 そう言ったクウィンスにナグサ、ミルエ、ツギ・まちはしっかりと頷いた。

「ミルエは高いモノだと思って知らないカービィさんから盗んだの」
「知らないカービィ? その人の特徴覚えてる?」
「うん! 紫色でね、背中にちょうちょみたいな羽が生えてるの!」

 蝶に類似した羽を持つ紫色のカービィ。ナグサからすれば見た事も聞いた事も無いカービィだが、カービィの生態系に関してツッコミを入れたら負けだ。

「その人が渡したの? それとも奪ったの?」
「奪い取りましたー!」
「!」

 笑顔で元気良く答えるミルエの隣で、ツギ・まちも笑って頷く。

「奪い取ったって、どうやって?」
「戦ったよ! あのカービィさん、粉が強烈だったけどまっちんのおかげでどうにかなったよ!」
「♪」

 粉が強烈の意味が良く分からないけど、とにかくミルエとツギ・まちは何らかの事情で魔道書を保持していたカービィから戦って奪い取った。そう認識すればいいのだろう。
 ナグサはそう結論付け、魔道書強奪理由を簡単に纏めてみる。

「つまりそのカービィが持っている魔道書が高く売れそうだから奪ったと?」
「そーなの! でも図書館で落としちゃった」
「~!」
「きゃー、まっちん怒らないでー!!」

 魔道書落とした発言に軽く怒ったツギ・まちにぽかぽか叩かれ、ミルエはちっちゃな悲鳴を上げる。本気で抵抗していないところを見ると全く痛みが無いのだろう。
 その後の事は知っているし、これ以上聞く事は無いだろう。ナグサは自分に納得させると立ち上がって、二人に向かって言う。

「そんじゃご飯にしようか。といってもカレーぐらいしか無いけど」
「おおー! カレーはミルエの大好物ー!!」
「♪♪」

 カレーと聞いて喜ぶミルエとツギ・まちを見て、ナグサは子供だなぁと苦笑した。

 ■ □ ■

 ――大国『オリジナル・カービィ』本城第三部隊詰め所にて、電話が鳴り響く。
 第三部隊隊長ベールベェラは鳴り響く電話に気づき、受話器を取って相手に対応する。
 思ったよりも準備に時間はかからなかった。
 ミルエとツギ・まちは一応旅人である為手馴れているし、ナグサも本当に必要最低限なものだけを持っていく事にしたからだ。
 ナグサの部屋以外はまだまだ風が吹いているが、吹き始めた時に比べるとかなり弱くなっている。ただしあくまでも屋内の話であり、家そのものは外の暴風でガタガタと揺れている。一歩でも外に出てしまうと確実に吹き飛ばされてしまうだろう。だがそれは逆に好都合だ。今旅立てば行方不明ということでごまかす事が出来るし、クウィンスも口裏を合わせてくれる。
 ナグサにとっては弟分に話していないのが気がかりであるものの、その辺はクウィンスがどうにかすると言ってくれた為、彼女を信じる事にした。
 四人は裏口に集まり、何時でも出発する体勢になっている。クウィンスはダミー本の表紙を開き、その中から地図と紙をナグサに渡す。

「はい、こちら大国防衛隊第三部隊です」
『ベェラさんですか? 私です。前に大国城下町の図書館司書をしていたクウィンスです』
「クウィンス? どうしてあなたがこちらに?」
『魔道書の件について幾つか尋ねたいのです』
「ナグサ君、これを」
「地図はともかくこっちの紙は?」
「魔女封印時に活躍した方々の中でもマナ氏と特に仲が良かった人達をピックアップしました。それぞれ何処に住んでいるかは既に書いています。……と言っても大半が大国本城にいる為、探すのには苦労がいるでしょうけど」
「……それでも全員じゃないんだよね」
「はい。ハッキリ言ってマナ氏は秘密主義者らしいので情報が得られるかどうかは分かりません。……だけどそれでもあなた達は行かなければいけません」

 ベェラは性急に話を進めようとしているクウィンスに、首(体?)を傾げる。
 普段冷静な彼女にしては何処か焦っているように感じるし、こんな時間にかけてくるのも珍しい。
 クウィンスはナグサをしっかりと見つめながら言い切った。ナグサは強く頷く。

「別にあなたなら構いませんが……一体何があったのですか?」
『単刀直入に言いましょう。本城に厳重警備されている筈の魔道書をミルエ・コンスピリトが保持していました』
「ミルエ? ミルエってまさか世界大戦時に出てきた銃器狂ミルエ・コンスピリト!?」
『声が大きいですよ』
「うん。行かなきゃいけない。……否定の魔女を復活させた責任を取る為に」

 クウィンスに注意され、ベェラは慌てて手に口を当てる。
 幸い晩御飯の時間ということもあって、ほとんどの隊員がいない。聞かれている心配はなさそうだ。
 ベェラはホッとし、すぐさま冷静さを取り戻してクウィンスに「話を進めるように」と言う。それを聞いたクウィンスは話を進める。
 そう言ってナグサは地図と紙をリュックの中にしまい、ミルエとツギ・まちに振り向く。

『ミルエ・コンスピリトは赤の他人から魔道書を盗んだと言っていましたが、何か心当たりは?』
「ありますわ、こちらで雇っていた何でも屋です。高い金を払って魔道書を別の場所に移動してもらっていたのですが、襲撃を受けて魔道書を奪われたらしいのです。……まさか襲撃者がミルエ・コンスピリトだったなんて」
『どうして何でも屋に? それに何故魔道書を別の場所に移動させるのですか?』
「ネビュラの予言ですわ。近い内に魔女が蘇る。蘇りを行うのは少年だと」
『あぁ、なるほど。王国には学校に行かずに就職した少年が大勢いますからね』
「その点何でも屋とは何回か依頼していますし、信用出来ますので。……一々高額請求してくるのが癪ですがね」
『そこはどうでもいいです。それよりも本題に入りますよ?』
「えぇ」
『私は魔道書を持ったミルエと図書館内で銃撃戦を行いました。しかしその結果、ミルエは魔道書を落としてしまったらしいのです。ミルエの面倒は私の知り合いに頼んで私は魔道書の捜索を行ったのですが……見つからなかったのです』
「……なんですって?」
「二人とも、良い?」
「何時でもオッケーだよ~!」
「!」

 ベェラは己の耳を疑った。
 少なくともクウィンスは不必要な嘘を言う女性ではないし、記憶力の高さ(特に本が関わっている時)は良く知っている。
 だからこそ信じられないのだ。魔道書が見つからないという事実が。
 図書館に無いのなら、魔道書は今何処にある―――?
 ミルエとツギ・まち共に元気良く答える。
 ナグサは二人の答えを確認すると、勢い良く裏口の扉を開く。直後、黄金の暴風が一気に屋内へと入ってきて四人へと襲い掛かる。全員一瞬壁に吹き飛ばされそうになるものの何とかその場に踏ん張り、壁にぶつかるのを防ぐ。
 ミルエはゴーグルを目につけると隣に立つツギ・まちに問う。

 ■ □ ■
「まっちん、何時もの行ける!?」
「!」

**&aname(honrainosugata){本来の姿} [#nd477cfb]
 ツギ・まちは力強く頷く。その表情は自信に満ちている。それを見たミルエは明るい笑顔を浮かべて頷くと、ナグサに振り返って手を伸ばす。

「おっけー! そんじゃ、ナッくん行こう!!」
「うん!!」

「あー、疲れた……」
 ナグサはミルエの手をしっかりと握り、勢い良く頷いた。
 ミルエはすぐにもう片方の手をツギ・まちの背中から突き出ている棒キャンディもどきをつかむ。同時にツギ・まちが暴風吹き上げる外に向かって飛び出していった。
 そのまま黄金の風に乗って天高く上がっていく。ナグサの家なんかよりもずっとずっと天高く。どんどんと空へと飛んでいく。風が三人を上から上へと吹き上げていく。その最中、ツギ・まちの体はどんどん大きくなっていく。風船が膨れていくかのようにどんどん大きくなっていく。
 あっという間にツギ・まちはナグサの家と同じぐらいの大きさとなり、ナグサとミルエは彼の背中にしがみつく形となった。

 ナグサは大きなため息をつけながら、自室に戻ってきた。
 晩御飯のカレーはミルエとツギ・まち(ナグサは彼が食べれた事に目を疑ってしまった)に大絶賛だったが、その後のおかわりラッシュが凄かった。好物だからかはたまたカービィだからかは分からないけど、凄かった。三日分はあるだろうカレーが一晩で空になったぐらいだ。
 その後、布団をひいてからミルエとツギ・まちを客室に案内して「ここで寝るように」と指示した。ミルエは軽くシャワーを浴びてから布団にもぐりこみ、ツギ・まちはそのまま布団に入って眠っていった。
 やっと静かになり、ナグサは自分もさっさと寝ようと戻ってきたのだ。何時もなら寝る前に少しだけ勉強しているのだが図書館の片付けの手伝いとミルエ達の面倒を見た後ではやる気が起きない。
 その時、ふと机に違和感を感じて目を移す。そこには見知らぬ一冊の本が立っていた。
「す、すごっ! ツギ・まちどーなってるの!?」
「まっちんは自分の体を自在に操る事が出来るのだー!!」

「……今度は何?」
 ツギ・まちの巨大化にナグサが驚く隣で、ミルエは嬉しそうに解説する。ツギ・まちもそれに合わせて勢い良く片手を上げる。体そのものは動かしていないので二人に衝撃は無い。
 仲良しな二人にナグサは和むもののそれは一瞬。空を飛ぶ中、暗い面持ちになって二人に謝罪する。

 自分でも感心しそうなぐらい疲れきった声を出しながら、机の上にある本を手に取る。
 それは子供の落書きで形成された白いノートブックだった。
 ナグサはノートブックが何故ここにあるのか分からなかった。自分はこんなもの買った覚えもないし、こんな落書きを書いた覚えも無い。
 それならどうしてこんなノートがここにあるのだろうか? そう思いながら、ページを捲ろうとしたその時だった。
「……ごめんね。巻き込ませちゃって」
「へ? ナッくんどーしたの? 悪いの……ミルエなのに」
「だって僕が余計な事をしなかったら……」
「気にしてないよ」

「あー! それだよ、ミルエの盗んだ魔道書ー!!」
 暗い顔をするナグサに対し、ミルエは首を横に振る。そして極上の笑顔でナグサにこう言った。

 いきなり後ろからミルエの大声が出てきた。
 ナグサはいきなりの大声に思わずノートを大きな音を立てて閉じ、瞬時に振り返る。そこには予想通りミルエの姿があった。帽子は外しているらしく、普通のまん丸カービィだ。
 ナグサはその姿に違和感を感じ、ミルエがやってきた理由よりも早くそっちを尋ねてしまう。
「それにミルエね、ナッくんともっと仲良くなりたいの」

「あれ、耳は何処にいったの?」
「付け耳だよ。ってかナッくん、良く見つけられたね」
「へ? あ、いや、これは……」
 ひまわりのように明るく可愛いその笑みとある意味とんでもないその台詞にナグサの顔が一気に赤くなる。が、すぐさま顔を左右に振り、慌てながらこう言った。

 ミルエが魔道書らしきノートを見て勝手に感心しているのを見て、ナグサは弁解しようとする。だがそれよりも早くミルエは何処か納得したような口調でとんでもない発言をした。
「か、勘違いしないでね! 僕はただ魔女を復活させてしまった理由で旅出たのであって、君に対して変な感情は持っていないから! だから変な勘違いしないでよ!? 分かった!?」
「ほえ?」

「でも見つけるの簡単だよね。それ凄く分厚いし、いっぱいいっぱい難しい事書かれてるもん。まるで辞典みたいだもん」
「辞典だって!?」
 あぁ、何て分かりやすいツンデレ。でも伝わってない。
 ツギ・まちは己の背中の上にて行われているやりとりを聞きながらそう思ったのであった。

 それを聞いて驚いたナグサは、咄嗟にノートに目を写す。どっからどう見ても子供が書いた落書きだらけの真っ白なノートだ。まかり間違っても辞典には見えない。
 困惑のあまりナグサはノートとミルエを交互に見てしまう。その姿を見たミルエは不思議がる。

「辞典そんなに見てどうしたの? 魔道書だからびっくりしてるの?」
「……ミルエちゃんにはこれが辞典に見えるの?」
「うん、ナッくんにはどー見えるの?」
「落書きノート」

 素直に答えてみた。ミルエが吹いた。

「……ぷっ。あは、あははははははあはははははは!!!! な、ナッくん! はははひゃははは! そ、それはさ、さすがのみ、ミルエでも、ない、ないよ~!! あははははっははやははははは!! お腹いたい~!!」

 町中に響きそうなぐらいの大爆笑が発生した。
 ナグサは至って普通に答えただけであり、受けを狙ったわけではない。
 だがミルエからすればあまりにも滑稽な答えだったらしく、ばんばんと床を叩きながら呼吸が苦しくなるぐらい爆笑している。

「そ、そこまで笑うか普通……?」

 ナグサが声をかけるも聞こえていない。完全にツボに入ってる。
 そんなに自分はおかしい発言をしたかと思いながら、ノートに目を写す。どっからどう見ても落書きノート。辞典には天地がひっくり返っても見えない。
 ふと疑問に思う。これが例の魔道書とミルエはハッキリ言った。だけどこれはナグサには落書きノート、ミルエには小難しい辞典に見えている。否定の魔女を封印している魔道書にしてはおかしすぎる。ならば、こう考えるのが自然だ。

「これそのものに魔法がかかっているのか?」

 そう呟きながら、パラリとノートのページを捲る。中身は表紙同様落書きだらけだ。だけどナグサは動じない。
 ぱらりぱらりとページを捲っていく。全部子供の落書き。だけどナグサは飽きる事無く、横でまだ爆笑しているミルエを完璧無視し、一心にページを捲る。
 カービィをイメージして書いただろう沢山の丸が十字架なのか剣なのか良く分からないものをもって戦っている絵。他にも色々な羽が生えたカービィの絵、目にゴーグルをつけたり、頭に耳が生えたり、と大雑把な特徴があるカービィの絵もある。
 真っ白なドレスを身に着けた人間の絵。手には何故かハリセンを持っている。多分扇子を意識しているんだろう。
 沢山のカービィとドレスを着た人間が戦う絵。人間が異様にでかくて何か怖い。
 真っ赤なクレヨンを塗って塗って塗りまくっている絵。ところどころに手やら足やらの落書きがある。
 死という字を二ページ丸まる書いているページもあった。これが一番雑だけど、色が赤黒くて逆に恐ろしかった。

「悪趣味……」

 落書きの内容に思わず呟いてしまう。世界大戦当時をイメージしているのだろうか?
 絵が下手だからマシというわけでもなく、寧ろその安直さが恐怖を強めている。その当時の様子をハッキリと覚えているから尚更だ。
 次に捲ったページは爆弾が爆発した絵。ご丁寧に体の一部が吹き飛んでいるのも付け加えられている。悪趣味にも程がある。 どこにも魔女の復活方法なんて書いていないし、読んでいるだけで気分が悪くなってくる。こんなのどんな意味があるんだ? まさか騙されているんじゃないんだろうな。……騙されている?
 そこまで考えてからふとある事に気づき、まだ笑い転げているミルエにすぐさま話しかける。

「ミルエちゃん!!」
「ふにゃ!? なになになに!?」
「悪いけど、このページ読んで!! 今すぐ!!」
「えぇ!? な、何で?」
「何でもどうしてもない! 良いから早く!!」

 そう言ってナグサは適当に開いたページをミルエにグイッと見せ付ける。
 ミルエは困惑しながらも、途切れ途切れながらに読み始めた。ナグサからすれば落書きしかないページを懸命にだ。

「えーと、かつては生ある者だったが死した時、魔女の魔力によって再び……んだ生を……。えと、二つに分けるならふせいって読めるけど、一緒だと分かんないや……」

 すっごく困った顔をして、ナグサを見上げるミルエ。ナグサはそれを見て、己の推測が正しいと結論付ける事が出来た。

「読めないならもういいよ。分かりたい事は分かったから」
「え、そうなの!? ナッくんすごーい!!」

 意味が分かっていないにも関わらず、素直に褒めるミルエはこうして見ると中々可愛いものがある。慣れてきたのかナグサは「ありがと」と言ってから、再びノート……魔道書を手に取る。

「僕が知りたいのは過去が描かれた絵でも、魔女の魔力による産物でもない。……この魔道書の本来の姿だ!」

 ナグサはそう深く強く思いながら、再びページを捲る。
 直後捲られたページから黄金色の渦巻く風が激しく巻き起こる。

「うわっ!?」
「きゃー! なになになにー!?」

 あまりにも眩し過ぎる、色がついているありえない風に二人は思わず目を瞑ってしまう。
 激しい風が戸棚を、机を、ベッドを、窓を、扉を、二人を、部屋全体を揺らす。まるでこの部屋にだけ巨大な台風がやってきたみたいだ。
 吹き飛ばされないようにその場に踏ん張る二人。
 黄金色の渦巻く風に乗るように、声が聞こえてきた。

『あぁ、何と可愛らしい好奇心。何と可愛らしい意地。何とも可愛らしい。しかしとても愚か。それ故に、それ故にやってはいけない事をしてしまった。だけども褒めてやろう。褒めてやろうぞ。汝等は人助けをした。だがそれと同時に、大罪人と化した。ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふ。意味が分かるか? 愚かな童よ。無知な娘よ。妾の言う意味が分かるか?』

 聞いた事も無い女の声。声色こそ幼子を宥める母親のようだが、伝わってくるのは母性じゃない。感じた事の無い威圧感と恐怖だ。
 この瞬間、ナグサは己が何をやってしまったのか、理解してしまった。

 ■ □ ■

 ナグサが寝室に入ったのと同じ時刻、ベェラとクウィンスは魔道書に関して話を続けていた。
 クウィンスはベェラに事件の概要を簡単に説明していく。ベェラはそれを黙って聞いている。
**&aname(taikokunosensitati){大国の戦士達}; [#sd6c2c74]

『戦闘で散り散りになった本を片付けていけば自然に見つかると思っていたのですが、そのような本は出てきませんでした。あのような真っ白な本、探せばすぐに見つかると思っていたのに』
「真っ白な本? クウィンスにはそう見えたのですか?」
『どういうことですか?』
「……あの魔道書、見る人によって姿形が変わっているんです。いえ、正確に言うと個人個人に幻を見せ付けていて、本当の姿を誰にも見せないのです。自分ならば確実に読まないだろうジャンルの本という幻を」
 大国本城内部に吹き荒れていた黄金の風はほぼ止みかけていた。
 そのおかげで城下町の住民の避難も安全となり、防衛隊全隊の活躍もあって最悪の事態は免れた。ただし損害は免れておらず、かなり酷い事になっているエリアも多々存在している。しかも住民の何人かは暴風によって飛んでしまい、そちらの救出活動もしなければならない。
 しかもその暴風、黄金の風を起こした原因は復活した否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガン。風が止み次第、速攻で否定の魔女問題にも目を向けなければいけない状態なのだ。
 一気に数多くの問題を抱える事になった大国の皇帝と防衛隊は今、必要最低限の人数のみ玉座の間にて会議を行っていた。

 意味があるのか無いのか分からない。
 ベェラは自分で説明しながらため息をする。その言葉を聞いたクウィンスはふと疑問に思ったのか、少し尋ねてみた。
「黄金の風は屋内こそ止み始めたものの、屋外は逆に勢いを増しています。今現在外にいるカービィに避難警報を出していますが、既に飛んでいってしまった者もいます。この様子では最低でも三時間、最高で半日以上は続くと思われます」

『確実に読まない……。つまりベェラさんにはどう見えたのですか?』
「乙女の口から言わせるつもりですか!? さすがのクウィンスでも怒りますよ!!」
『その発言でジャンルが一瞬で分かりました』
 書類を手に持ちながら現状説明を行うのは黄緑色のケープを被った薄い緑色のカービィの飛燕。
 雑用係が他の者達に同じ書類を渡していく。書類は分厚いものの中身は全て否定の魔女に関する情報だ。当然その中に黄金の風についての事も書かれている。
 飛燕の説明を聞き、先端が四つに分かれて装飾品のついた帽子と目を隠す仮面を被った女性ルヴルグはうんざりした様子で呟く。

 ベェラの憤怒と多少の照れが入った叫びを聞き、クウィンスはベェラが何を見たのか一瞬で察したその時だった。とんでもなく大きな放送が城全体に響き渡ったのは。
「まだまだ風に振り回されそうだな」
「でも避難は完了していますし、当面の問題は障害物の排除と行方不明者の捜索。その後の問題は当然……彼女しかいません」

『緊急連絡! 緊急連絡! 封印場から黄金の風が渦巻き、魔女の笑い声が響いている!! 繰り返す! 封印場から黄金の風が渦巻き、魔女の笑い声が響いている!!』
 ルヴルグの呟きを聞き取ったのは色とりどりの幻想的な翼を持ち、大きな羽のような耳が特徴的なコーダだ。
 コーダが言った「彼女」という言葉に反応するのは背に刀を吊るしているイブシだ。

 何時に無く焦った放送はベェラの顔を青くさせた。
 封印場、黄金の風、魔女の笑い声、この三つの単語だけで何が起こったのかわかってしまった。それ即ち――否定の魔女の復活。
 ベェラは最悪の事態に動揺しながらも慌ててクウィンスに叫ぶように話しかける。
「問題は否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガンだけじゃない。奴を蘇らせた馬鹿を見つけ出す事も重要だ」
「ん? ミルエ・コンスピリトじゃないんですか?」

「クウィンス! 今の放送聞こえました!?」
『えぇ、バッチリ聞こえました。黄金の風と魔女の笑い声、ここまで聞ければさすがに分かります』
「クウィンス、魔道書は見つかっていないんでしょう!? それならばどうして!?」
『私が聞きたいぐらいですよ!』
 イブシの言葉を聞き、首を傾げるのは羽の生えた帽子を被ったアカービィだ。アカービィと同じように他数名も首をかしげている。
 彼等に説明を入れるのはイブシではなく、ベェラだ。

 ベェラの問い詰めにクウィンスは乱暴に返す。
 二人の女性、否、城中の人々が放送によって困惑に満ちていくその時だった。
「ネビュラの予言では少年が魔女を復活させるとありましたわ。それに先ほど電話でクウィンスから聞いたところミルエは彼女の知り合いに保護されているらしいですし」
「知り合い、といいますと?」

 角の生えたカービィのユニコスが首を傾げる。

「ミルエを保護した人物ですわ、もしそれが少年ならばその者が復活させた可能性もありますの。ですが誰か聞く前に互いに切ってしまいました」
「うわ、本末転倒」
「いきなり黄金の風が吹いてきて電話どころじゃなかったのです。ってか職務サボって昼寝して、挙句飛ばされかけたあなたには言われたくないのですが」

 ――――黄金の風が世界中に吹いたのは。
 ウォルスのコメントにベェラは説明を付け加えてからすぐに言い返す。言い返されたウォルスは何も言えなくなり、黙り込む。

「情報も確かに必要ですが、防衛隊はあくまでもこの大国防衛を優先するもの。この場合ベェラの判断は正しいですよ。それを本末転倒と言い切るのはまだまだ未熟と言う証拠だと私は思いますが?」

 続けてコーダがウォルスに厳しい口調で言う。ウォルスは益々何もいえなくなり、顔を俯かせる。毒舌二名と相手して勝てる自信は無い。
 一同は何時もの事だと軽く流しながら、本題へと戻る。イブシは両手を組み、簡単にこれからの事を纏める。

**&aname(ougonnnokazetohiteinomajo){黄金の風と否定の魔女} [#xa8f5689]
「風が止み次第、否定の魔女捜索と魔女復活の犯人捜索だな。飛燕、おめー犯人特定出来るか?」
「当然。クウィンスは今東南に位置する町の図書館勤務だからその周囲を調べてみるよ」
「あ、僕も手伝うよ。情報を出すなら得意だし」

 情報通である飛燕が得意げに答える。それに続くのは現在実体化しているコンピュータープログラムのZeOだ。この二人に任せておけば犯人の特定は容易であろう。
 イブシは二人の申し出を聞き、軽く礼を言ってから次の指示を出す。

 突風は波を大きく揺らし、波紋を導き、荒れさせていく。木々が今にも地面から飛んでいってしまいそうなぐらい揺れていく。
 多くの建造物が地震でも来たかのように左右に揺れていく。看板や置物があまりの風に耐え切れず、宙を飛んでいってしまう。カービィや動物まで飛んでいる。
 建物の中にまで突風が入ってくる。窓もドアも開けていないというのに、激しい風が人々を叩き付けている。
 それはあまりにも突然すぎる不可解な風。
 人々は黄金の風に困惑し、それぞれ驚きを隠せなかった。
「ありがとよ。んじゃミルエ・コンスピリトとツギ・まち両名の探索も一緒に頼むぜ。間接的にとはいえど、魔女復活に加担している。魔道書を盗んだ張本人だからな」
「分かってるよ、イブシ隊長」
「あ、そういえば黄金の風が吹いてる途中で何でも屋から一つ連絡が入っていました。話してよろしいでしょうか?」

「おいおい、この風って世界大戦の時と同じじゃないか?」
「間違いなくそうでござろう。タービィ、吹き飛ばされないよう気をつけるでござるよ」
「分かってるぜよ。そういうお前もご自慢の茶碗がふっ飛ばないように」
 イブシの指示に飛燕が答えた隣で、雑用係として呼ばれていたアメルが手を上げる。イブシが「いいぞ」と答え、一同が彼女に注目する。アメルは軽く会釈すると話し始める。

『ログウ! saberカービィ!! 無事? 飛んでない!?』
「なんとかね。saberがつかんでくれてるから天井にぶつからなかったよ」
「無事。ZeOは?」
『電脳空間にいるから平気! 今、豪鉄の方に連絡してるとこ!! この状況で一番やばいのは空にいる連中だから!!』
「何でも屋のラルゴ氏からの連絡ですが『ミルエの追跡を行う。良い助手を拾ったので無理矢理同行させている為、前回のようなヘマはしない。犯人捕まえたら2500万Od宜しく』となっておりました」
「に、にせんごひゃくまんおだ!? 何でそんなベラボォにたっかい請求を!」
「それがあの何でも屋だ。腕はあるがその分高額請求なんだ」
「どこのBJ?」
「というか助手を拾ったって、それ思い切り誘拐じゃないか?」

「何々この風!? 科学的に解析できるかなー!?」
「ジル、何を馬鹿な事言ってんの!? ……ってダム・Kが空に飛んだー!!」
「ジャガール、それマジ? あ、うわ、派手にぶっ飛んでる!!」
 あまりの高額に零式が思わず声をあげ、ホワイトが冷静に付け加える。アカービィとユニコスは連絡内容についツッコミを入れている。
 一方でベェラはアメルに視点を合わせ、凄い真剣な顔で確かめる。

「夜影、上手く風に乗れよ。バランス崩したら一発でアウトだ!」
「わ、分かりましたー! でもヴェイブ先輩、これきついですー!!」
「……アメル、ラルゴとの連絡はまだ出来ますのよね?」
「あ、はい。向こうが切ってさえいなければ」
「なら、後ほど値下げ交渉します。……2500万Odも払ってたまるものですか」

「ちょ、吹っ飛ぶ! これは吹っ飛ぶ!!」
「絵龍ちゃん、大丈夫? あ、出来れば前に話した件してくれないかい?」
「クレモトさん、今はそれどころじゃない! ってか何を平然としてるんすかー!!」
「あ、OK? ありがとう。交渉成立だね」
「人の話を聞けえええええええええええ!!」
 最後に小さく呟いた言葉は、この場にいる隊長格全員の心を代弁してくれた。確かにこんなアホみたいな値段、普通は払ってやろうとは思わん。
 だがしかしそれを聞き取った上で、訂正した人物がいた。

「ちょ、ユニコスさん! 剣が、剣がこっちに飛んでくるんですけどー!?」
「分かってるよ、シーヤ! あ、傷はつけないでくれよ!?」
「無理無理無理無理無理無理無理無理!! あーもう、これなら手伝いに来るんじゃなかったー!!」
「別に構わん。その程度の額ならばな」

「魔女が目覚めた……。エンペラー様、どうやら予言が」
「言うな、ネビュラ。この風が吹いてしまった以上、わし等が後悔している暇は無い。それよりもやるべき事が山ほどある」
「そうですね。やるべき事は沢山あります」
 そう言った人物に一同は一斉に体を向ける。
 玉座に座り、今まで会議を黙って聞いていた最高責任者であり大国皇帝――エンペラー。彼は言葉を続けていく。

「何で、建物の中にまで……! きゃああああああ!!」
「セラピム、早く俺の手につかまって!!」
「コーダさん! セラピムさん! この風、予想以上にきついんですけど……!!」
「分かっている、フズ! でも今は耐え切らないと!!」
「2500万Od程度ならば払える額。それをわざわざ値下げする必要性は無い。……それよりも早くこちらが保護すれば良い事でもあるしの」
「……あー、なるほど。こっちがミルエとツギ・まちと犯人捕まえてしまえば、払う意味ありませんね」

「再び目覚めたか、魔女が」
「イクステオ様、どうするんですか? このままじゃ第二次世界大戦起きちゃいますよ!?」
「慌てるな、クゥ。既にラコニアを向かわせている。我等が出るのは本当にどうしようもない時よ」
 コーダがうんうんと頷きながら納得する。確かにそっちの方がはるかに早いし、面目もつぶれない。
 だが飛燕はその点に関しての問題点であるミルエとツギ・まちについて話す。

「全部隊怯むな! 何としてでも城と城下町の被害を最小限に抑えてみせろ!!」
「イブシ、張り切ってるねー。そんじゃ僕も頑張らないとね」
「飛燕、のんきに言ってる場合か?!」
「ルヴルグ、怒鳴らないで。焦りは負け、この風は情報にあるから何とかなるよ」
「相変わらず落ち着いたお方ですね……」
「いや、あの人の場合のんきが正解じゃないか?」
「アメル! アカービィ! お前等ものんきにするな!!」
「わーってますよ、ホワイトさん!!」
「ですが陛下、ミルエ・コンスピリトは大戦のあの事件では銃器狂、銃の戦乙女と呼ばれるほど活躍している上に、あの人の血縁。ツギ・まちはグルミィが関わっている人形です。二人を捕まえるというのなら、生半可の者では無理ですよ」
「その点に関してはお前達の中から数名出したいと思う。……構わんか?」

「おいおい、この風が出たって事は……」
「ウチ等の仕事が増えるって事やないか! キリア、どないすんの!?」
「俺に言うなよ、デス・スター! こーいうのはカーベルやムーン・ライトの方が詳しいっての!!」
 エンペラーの問いかけに全員頷く。
 もとより一般兵如きでどうにかなる相手でも無いし、隊長格が行った方が早い。それに隊長格は大戦で活躍した“英雄”なのだ。負ける姿の方が考えられない。
 頼もしい彼等にエンペラーは満足そうに頷くと、勢い良く声を上げて命令する。

「! !!」
「Σ、大丈夫。大丈夫、だから……」
「フル、無理に自分を落ち着かせなくていい」
「-さん……」
「怖いのは、みんな一緒。私が二人を支えておくから大丈夫」
「一番隊隊長イブシ、副隊長アカービィ。二番隊隊長飛燕、副隊長零式。三番隊隊長ベールベェラ。四番隊隊長ホワイト、副隊長ユニコス。五番隊隊長コーダ。六番隊隊長ルヴルグ、副隊長ウォルス。プログラムZeOに命ずる! 否定の魔女と魔女復活を行った犯人、及び魔道書強奪を行ったミルエ・コンスピリトとツギ・まちの位置を特定。後者三名は確実に捕獲せよ!! 手段は諸君等に任せるが決して殺すな!! 尚、現在不在の三番隊副隊長シルティ、五番隊副隊長レイムにも連絡を怠らずに! それでは解散!!」
『了解!!』

「もふー! もふもふー!!」
「も、もふうううう!!」
「……モフモフ達が空を飛んでる光景って初めてだ」
「フロース、言ってる暇、無い! 非難!」
「分かってるよ、モフモフの通訳さん」
 エンペラーの指示を聞き、彼等は一斉に玉座の間から出て行く。雑用係として呼ばれたアメルもまた同じように出て行き、己の所属する部隊に戻っていった。

「キャアア! 宝石ちゃん飛ばないで。お願いだから飛ばないでえええええ!!」
「ねぇ、それ宝石とトゥルのどっちなの!? 答えて、フェラーリイイイイ!!」
「……否定の魔女よ、今度こそ貴様の望みかなえてやろう」

「うわ、こりゃやばいわね……。アクスちゃん、患者さん迎え入れる準備は出来てる?」
「出来てますよ。ナース先輩! キルさん達はどうですかー!?」
「僕と颯は何時でも行けれるよ! エレクは!?」
「何時でもいけますよ。いやぁ、まさか世界大戦と同じ時の風が吹くなんて……ヘヘ」
「ぶーっ!!(笑い事じゃないー!!)」
 全員がいなくなったのを見計らい、エンペラーは一人呟いた。

「風が吹いた。風が吹きやがった。魔女の時間だ。魔女が再び現れやがった!!」
「嫌に楽しそうだなぁ、オルカ! 折角の戦いの時間を邪魔されてるっていうのによ」
「おいおい、レヴィ。お前は馬鹿か? 魔女が現れたって事はでっかい殺し合いがまた始まるんだぜぇ!?」

「ウェザー、早くそっちの花畑にシーツを! ちょっとでもいいから花を守って!!」
「分かってます、シードさん! でも油断してたらこっちが……!!」

「このカゼ……セカイタイセンとおなじ……。また、たたかうの……?」
『EM-05! 呆然としてる暇があるなら飛ばされんじゃないわよ!』
「わかってる、アルケー!」

「酷い風だな……。ポチ、飛ばされるなよ」
「ソラもね! でもさ、建物の中でもこれって酷くない?」
次回・第一章<人形屋敷>

「嫌だなぁ、世界大戦。折角のお人形がバラバラになっていっちゃうじゃないか。嫌だなぁ」
「……あなたの頭にはそれしかないの!?」
「無いよ、ちるちゃん。狂った御人形屋のローレンはそれしか無いんだよ」

「魔女が出ちゃった! どうしよどうしよ!」
「どうしよう。この時計台破壊されないかな!?」
「落ち着いて、クノック。ノノック。この時計台は祝福を受けてるから、多分どうにかなるよ」

「あぁ、風のせいでゲームがバグった!?」
「ピコ、言ってる場合じゃない! 布団がふっとんでるから!!」
「……リュウ、それすっごく寒い……」
「って倒れないでー!?」

「一体どこの馬鹿がこんな風を吹かせたのだろうな」
「拙者に聞かれても分からんでござる。それよりも今はイブシ殿の下に行き、指示を聞くのが良いと思うぞ。五右衛門よ」
「承知した、外郎よ」

「これ、世界大戦の時の風じゃないか! ラルゴ、これ……」
「……奪った奴が魔道書を読んだ。答えはこれしかないだろ、カタストロ」
「一体何を考えてるんだ、読んだ奴は……?」

「否定の魔女が復活か。これは隠居生活どころじゃないかもね」
「マナ氏、どうしたの?」
「大国に行こうって思ったんだよ、アリさん」

 黄金の風は魔女が現れる合図。
 六年ぶりに吹いたその風は、忘れかけていた魔女を思い出すには十分すぎる程だった。

 ■ □ ■

 世界中に激しい黄金の風が吹く中、一足早く風が止み始めた場所があった。
 それはナグサの部屋。魔道書が現在存在する場所。
 風が穏やかになっていくにつれてナグサとミルエは目を開き、魔道書へと顔を向ける。そこにあるのは落書きノートでも小難しい辞典でもない。
 黄金色で書かれた奇怪な魔法陣が表紙に飾られている真っ白な本が宙に浮いている。その隣には風が吹いているにも関わらず、空中に真っ白なカービィがいた。飛んでいるわけでも浮いているわけでもない。空中でしっかりと立っている。
 半透明のベール、ベールを飾り付ける二つの真っ白なレースのリボン、両手両足にも白いレースのリボンが飾りつけられている。スカートのような真っ白いレースの飾りも身に着けており、花嫁を連想させる姿をしている。唯一花嫁と違うのは持っているのが花束ではなく、白い扇子だということ。
 美しい。ナグサとミルエは真っ白なカービィを見て思ったのは、美しい。それだけだった。
 花よりも美しく、魔法よりも幻想的な雰囲気を持つ真っ白なカービィは優しく微笑みながら二人に話しかける。
次回予告

「……良くぞ妾を封印から解いてくれた。礼を言うぞ、ナグサ。ミルエ・コンスピリト」
「へ? どーしてミルエとナッくんの名前が分かったの? さてはエスパーか!?」
「あ、あの……まさか、あなたは……」
「おぉ、大きなお屋敷ー!」
「何か不気味すぎて入るのに躊躇するんだけど……」

 ミルエが驚くのを他所に、ナグサは恐る恐る話しかけようとする。
 真っ白なカービィはナグサの言いたい事が既に分かっているのか頷き、己の名を名乗った。
 ナグサ一行が最初にたどり着くのは大きなお屋敷。とっても不気味なお屋敷。

「左様。妾は否定の魔女トレヴィーニ・フリーア・フェイルモーガン。世界大戦時に混沌を呼び起こした張本人よ」
「怖がらなくていいよ。ただ夜中は色々な意味で歩き回らない方が良いよ?」

 ――――六年の時を得て、否定の魔女が蘇った。
 屋敷の家主の不気味な忠告。家主そのものも奇妙な外見をしているから、余計に恐ろしい。

「……早く、ここから逃げて。お願いだから」

 屋敷の何処からか聞こえてくる不思議な声。

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